33年目の集い

岡山大学医学部生体防御医学講座

上中 明子(17回生)

 

 20001118日、東京を1310分に出発した‘こだま’は、もうすぐ熱海。普段は無頓着なわたしが化粧室へ行き、紅を加え、快い緊張感をいだいている。晩秋の熱海駅に降り立って、同総会幹事の田中君を捜した。ふと学生時代の彼を捜していることに気が付き、態勢を立て直して50代半ばの皆を捜し当てた。そこには、卒業以来33年ぶりの友も。公共の場も顧みず、「どうしてたの?」、「年とらないね」、「貫線ついたね」、「髪、少し白くなったね」まず懐かしく大きな声でワーワーと騒いだ。そして、皆でタイムスリップ。5分も経っと昔の仲間に戻り、話題は現旧取り混ぜて多岐にわたり、そして止まるところを知らず、MOA美術館、夜の宴会、翌日の箱根ツアーと語らいは延々と続いた。

 振り返ると、大学時代の4年間はさほど長くはないのだけれど、わたしの意識の中に脈々としていて、まちがいなくルーツとして生きている。わたしの自己の形成の大きな幹であろう。時に「わたしって何、アイデンティティは?」の思いが脳裏に浮かび上がってくる。いろいろ思い巡らして、わたし自身の歴史が縦軸で、その時々の人間関係が横軸で、その両軸の織り込みが決めているんだろうという自分なりの答えのような妥協を見い出す。こんな具合に脳の自己は難しい。

 もう一つの自己、体の自己については、免疫系が生体個体のアイデンティティを決定している。種々の免疫担当細胞の中で、特にTリンパ球は胸腺で成熟し、その環境の中で将来に遭遇するかもしれない抗原について教育を受け、成熟して病原性の微生物や移植された臓器など自己とを区別し、フアジーな中にも分子論的に認識反応し、生体個体の維持を行っている。Tリンパ球の抗原の認識は、酵素や、抗体の反応と異なり、主要組織適性抗原分子に提示されたペプチドを複合体として認識する。主要組織適性抗原分子自体‘個’の部分でもある。このようなTリンパ球の抗原認識機構、がん抗原ペプチドの同定、ワクチンへの応用へむけての基礎研究に、長いブランクはあったものの、55歳のわたしは、若い学生たちと一緒に夢を追っている。少し老の入った我が眼にムチを打ち、チップの最先端を見つめ、実験結果に一喜一憂しながらの日々である。

 こういう日々の中で、今回のように過去のあるポイントを想い、旧友と語らうことは、ただ懐かしさ以上のものを、わたしの脳の自己に与えてくれる。箱根の関所跡で、箱根山めぐりの皆と別れたわたしは、午前中どんよりかかっていた雲も去った青空に映える錦の紅葉を箱根登山鉄道の車窓に見ながら、湯本へ。またの機会を楽しみにして。