岡田弘晃先生学会賞ご受賞にあたって

武庫川女子大・薬   
内田享弘(
32回生)

 九大薬友会関西支部長の岡田弘晃先生が、本年7月にパリで開催された第27回のControlled Release SocietyCRS)の年会で本年度より新たに設立されたNagai Innovation Awardをご受賞をされました。心からお慶び申し上げます。

 今回のご受賞はすでに日本をはじめ世界で市販されている武田薬品工業鰍フリュープリン(酢酸リュープロレリン;LHRHのアゴニスト)の製剤開発に対して与えられた賞であり、開発当時武田薬品工業鰍フ製剤研究所の所長をされていた大塚製薬褐ヒ口始博士との共同受賞となりました。大阪の新阪急ホテルにて受賞の祝賀会が917日に開催され、岡田先生ご夫妻を囲み、永井恒司星薬科大学名誉教授(旧CRS会長)、京都大学薬学部橋田充教授を始め、大学、企業より多くの方々がご受賞を祝いました。私も岡田先生と同様に微粒子系製剤の開発・研究に携わる身として、開発の経緯から開発時の苦労話などを拝聴する大変貴重な機会を得ることができました。なお、祝賀会場の都合で参加者をいくつかに分割して記念写真撮影が行われました。

 それでは、岡田先生のご受賞の対象となられた、ご研究について私見を交えて以下にご紹介させていただきます。21世紀に向かって有望な産業として、医薬品業界が挙げられますが、これまでの医薬品開発は欧米主導型で、画期的新薬といえば日本で開発されたものは殆ど無く、大部分が欧米の大手製薬企業が開発した製品という感があります。

 そのような中で日本の製剤技術は世界的にも遜色ないレベルを誇っていると思われます。ドラッグデリバリーシステム(薬物送達システム、いわゆるDDS)も直腸部に滞留しやすい坐薬のプリザS(大正製薬)のテレビコマーシャルが登場して以来、国民の間にようやく認知されつつあるようですが、実際に製品となった医科向けの画期的なドラッグデリバリーシステム(DDS)製剤は意外に少なく、日本でも制癌剤、PGEl製剤、と岡田先生が中心になって開発された上述のリュープリン3つだと理解しております。特にこのうち、リュープリンは、水溶性でしかも不安定である、黄体形成ホルモン(LH−RH)のアゴニストを、生体内分解性をもつ、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)からなる微粒子内マトリックス中に封入した製剤で、皮下注射後も、生体内で高分子の分解に伴ない、薬物を一定速度で徐々に放出し続けることにより約1ケ月間薬効を持続するという優秀な徐放性製剤で、全世界的に医療現場で繁用されています。現在、前立腺癌、閉経前乳癌、子宮内膜症、中枢性思春期早発症など多くの適用をもち、優れた薬理効果は言うまでもなく、ほぼ一ケ月に一度の通院で治療が可能となり患者のQOLを大幅に改善する特性を併せ持つという意味でも画期的であり、私自身は日本の製剤分野では1980年以降の最大のモニュメントと考えております。

 岡田先生は、この活性が強いが、水溶性で非常に不安定であるLH−RHのアゴニストである酢酸リュープロレリンをいちはやく主薬として選択され、敢えてw/o/wという大量の水の存在するエマルションシステムを採用され、活性が強い高価なペプチドを効率良く、マイクロスフェアーといわれる、数十ミクロンの微粒子の中に封入することに鋭意努力され成功されました。とくに有機溶媒である塩化メチレンの高分子マトリックス中への残存問題の解決には大変ご苦労されたことを祝賀会でも伺うことができました。

岡田先生のScientistとしての優秀さ(発想の素晴らしさと問題解決力etc)、そして、そのリーダーシップは衆目の認めるところであります。すでに本研究においては日本薬学会製剤技術賞もご受賞されておられますが、重ねてのご受賞本当におめでとうございます。私も薬剤学教室の後輩として岡田先生の背中を見つめてまいりましたが、先生の活力とそのフレキシビリティには何度も感服させられました。

 岡田先生は現在武田薬品工業活纐事業部研究調査室を統括しておられる傍ら、九大大学院の連携講座である薬物送達システム(DDS)学講座の教授も担当しておられるなど多方面でご活躍されております。ご多忙を極められていることと思いますが、益々のご健勝とご活躍を祈念をしておりますとともに、九大薬友会関西支部長としても、いままで同様に強力なリーダーシップでご指導くださいますよう御願いいたします。