ドイツの俳人

 俳句は、日本独特の三行からなる季節の定型詩である。にもかかわらず、世界に愛好者が広がっている。1979年の朝日新聞に、「ドイツ語で俳句ひねる」との表題で、

    「世界最短の定型詩である俳句に魅せられ、日記代わりに1日(朝、
    昼、晩)3句ずつドイツ語ハイクをひねる俳人がミュンヘン市にいる」

との記事が載った。このドイツ人こそ、かつての我が社藤沢薬品がドイツで買収した製薬会社のオーナー、G.クリンゲ氏で、私はこの会社買収の直接の責任者であったばかりでなく、その後御一緒に10年余り取締役や会長としてお付き合いしたので、とても親しくさせて頂いた。クリンゲ氏の俳句は日本でも知られていて、1990年に日本で第6句集「石庭に佇つ」 "Steingartenstille" が刊行され、それがドイツ、アメリカでの刊行と合せて11冊目のハイク句集となった。稲畑汀子さんの序文に、「日本の俳句を真の意味で理解する外国の詩人は、少なくとも私の知る限り、クリンゲさん以外にはないように思われる」とある。

 そのクリンゲファーマは、ドイツフジサワGmbHと名前をかえ、今や藤沢薬品のヨーロッパ拠点となっている。94才になったこの親日家の資産家はなおかくしゃくたるもの、20年前からのお付き合いを振り返り、とても感慨深い。

 クリンゲさんの作品は1万句以上あるが、その中からドイツ語を殆ど知らなくても何となく分かる夏の句を一つだけ御紹介したい。

 日本語と同じく三行詩で、5―7―5の17音節(17Wordではなく)から成り立っている。

 Nur Noch ein Weinglas :      ただほんの一杯のワイン
 Wenn die Fantasie sprudelt.    すると、どんどん涌き出るファンタジー
 Oh, dieser Sommer         ああ、この夏よ      (直訳)

俳句風に直すと

 一杯の
  ワインに夢よ
   夏旺ん