「薬学教育6年制についての諸兄の御意見を読んでの感想」
 

九大薬友会関西支部
顧問 青木 高

薬学教育6年制実施を目前に控え、その向かって行こうとする基本的姿勢に大きな疑問と危惧を感じている方々の小論文を拝見する機会を持ちました。岩崎支部長の九大薬学部の学生募集要領の内容に対する疑問提起、熊懐さんの自らもその作成に関与された薬学研究白書(青書)を引用しての明確な意見表明、これらは、この大きな問題が深く充分に検討されるまでに未だ至っていないことを示しています。関西支部の顧問の立場にいる私も、このことに関し何か発言すべきだったわけですが、白状しますと、私はその頃12月締め切りの(a)論文(英文A4版40頁、1月出版)作成、(b)講演テキスト(180頁、1月末東京で講演)の提出という2つの宿題を急に抱え込む羽目になり、もっぱら執筆に没頭していましたので、このような有意義な論戦が支部内で進行している状況を最近まで把握していませんでした。そして印刷所へまわされる寸前に初めて皆さんの小論文を読ませて頂きました。そこでお許しを得て私の読後感を簡単に書かせて頂くことにしました。
 この問題については明確な長期的理念とその実現に向けて死にもの狂いに挑戦する情熱があるようには見えない場当たり的な薬学界の動向を気にはしていたのですが、熊懐さんが「薬学6年制の功罪」で指摘しているように、今進行中の改革案は、「薬剤師の地位向上」と「医療に貢献する薬剤師」を目指すことそれ自身は大変結構ではあるが、もう一つの本当に大事な薬学界の社会に対する役割を忘れているのではないかと強く危惧せざるを得ません。医療への貢献に対する薬学関係者の非常に大事な役割は、優れた新たな医薬を創製して世に送り出し、不治の病に悩む患者を救済することでなければなりません。そのために薬学の専門家が中心となってやるべきことは山ほどあります。

 その基礎となる薬学教育をもっともっと充実させなければなりません。現在、新薬を創製できる先端技術を持つ国は僅か先進7か国と云われています。日本もかろうじてその1つに入っていますが、製薬産業振興を国策として推進しているアメリカ、ヨーロッパ諸国に押されて苦戦しています。この方面を強化するための教育、研究政策が、薬剤師問題の陰に隠れてしまえば、後世に大きな悔いを残すことになりましょう。