財)日本医薬情報センター発行「JAPIC NEWS 20052月号(巻頭言)」より

べては患者さんのために
―改正薬事法の施行に向けて:製薬企業の立場から―
 

田辺製薬株式会社 信頼性保証本部
取締役・本部長 
永繁 晶ニ

昨年は相次ぐ大型台風、中越地震、スマトラ沖地震・津波など自然の脅威を目の当たりにさせられた、まさに「災」の年であったと思われます。「転禍為福」の例えどおり本年が「福」の年であるように祈念するばかりです。
 さて、いよいよ41日から改正薬事法が全面施行されます。今回の改正のポイントとして承認・許可制度の見直し並びに市販後安全対策の充実ということが挙げられます。
 本邦における医薬品の承認・許可制度は、長い間「製造行為」に着目したものでした。すなわち、製薬企業は自前で製造所を保有し製品を製造することが前提であり、それに基づいて医薬品個々の「製造承認」と医薬品製造に対する「製造業許可」の二本立ての制度で構成されていました。この点、欧米では早くから医薬品の流通という販売行為に着目した販売承認制度となっていました。
 新しい制度においては、国際的な整合性を反映した「製造販売業」が導入され、製造行為(製造業)と販売行為(製造販売業)が分離されます。結果として製造販売業者であれば医薬品の製造を全面的に外部に委託することも可能となりますが、併せて製造販売業者の市場に対する最終責任が明確化されることにより、品質保証と市販後の安全対策における責任が従来以上に厳しく求められることになります。そして、これらの責任体制として、製造販売業者は「総括製造販売責任者」、「品質保証責任者」、「安全管理責任者」といういわゆる“元売り三役”を設置することが義務付けられます。また、その許可基準として、昨年
922日に「医薬品等の製造販売後安全管理に関する基準(GVP)」および「医薬品の品質管理の基準(GQP)」の二つの省令が公布されています。
 新制度を医薬品製造面からみて全面的な外部委託が可能になるということは、製薬企業において生産体のありかたをどう位置付けるかの選択枝が広がることになります。各企業の状況にもよりますが、生産体の分社化ということがひとつの必然的な方向になってくると考えられます。しかしながら、製造面の体制がどうであれ、製造販売業者は品質保証部門を設置し医薬品の品質を確保しなければなりません。その主たる業務として、@医薬品の市場への出荷可否の適切な判断 A原薬製造を含む国内外製造業者の管理監督 B品質情報および品質不良などの処理、不良医薬品の回収などが挙げられます。そのためにも、製造販売業者においてはGQPを担当する品質保証部門の更なる整備・強化が必要ですし、製造所(あるいは製造業者)においては製造管理(GMP)が強固に構築されることが重要になります。
 安全性の面からは、医薬品の市販後安全対策として、従来の「市販後調査実施基準(GPMSP)」が、GVPと再審査等のために実施する市販後調査・試験(GPSP)の二つに分離されます。市販後の安全管理をGVPとして独立して定めることにより、企業における安全対策責任を明確にし充実を図るというものです。
 ところで、新薬の承認申請において海外の臨床試験データを利用するためブリッジング試験という手法による評価が増えてきています。このため、国内の臨床試験データが十分でなくても新薬承認申請ができることから、承認条件として大規模な市販後調査や市販後臨床試験の実施が義務付けられるようになりました。この傾向は今後さらに増加すると考えられ、この面からもますます市販後の安全管理、安全対策が重要になってきました。
 市場に対する責任という視点からは、GMPGQPさらにはGQPGVPが連携されて初めて改正薬事法の意義が発揮され、患者さんや医療関係者に対する責任が果たせることになります。
 このように市販後安全対策などを巡る環境が大きく変化する中で、現在、田辺製薬では慢性関節リウマチ領域でレミケード(抗ヒトTNFα抗体製剤)について「5000例を目標として、レミケードが使用されるすべての患者さんを登録し使用後の安全性について調査する」という、かつてない大規模でしかもプロスペクティブな市販後全例調査を実施しています。収集された安全性情報を速やかに医療関係者にフィードバックするとともに、評価・分析し情報提供することにより「副作用を未然に防ぐ」あるいは「発現した場合にも的確な対応により重篤化を防ぐ」など医療関係者の適正使用を推進するとともに、患者さんへの適正使用情報の提供を一層強化しています。医薬品はリスクとベネフィットのバランスの上で使用されるものであり、製薬企業の使命として、いかに安全性に関する情報をもれなく収集し、その情報を迅速かつ的確に医療現場に提供することが重要であるか、身をもって体験しています。
 以上、製薬企業としての立場から改正薬事法の話題を中心に述べさせていただきましたが、「すべては患者さんのために」を原点に、責任の持てる確かな品質の医薬品を安全性・有効性・適正使用などの医薬品情報とともに、患者さんや医療関係者の皆様に提供していくという使命を今後とも継続して果たしていきたいと考えております。

以上