社会人二年生になって
 

武田薬品工業株式会社 医薬研究本部

富松 佳郎


 近年話題となっていますが旧国立大学が独立行政法人化して久しく、当初は片田舎の九州大学がいかにして学生を集め経営を成り立たせていくかと話題になりましたが、九州の中枢、福岡に位置する九州大学は九州地方の中枢教育機関として、また分野によっては日本や世界における研究の中枢的役割を果たしているようです。

 さて、九州大学薬学府を修了して社会に飛び出した私も早くも社会人二年目の冬を迎えました。そこで大学を卒業してからこれまでの近況報告をしたいと思います。
 現在の企業採用システムにおいては、修士1年の秋口に就職活動を行いますがその時期はちょうど研究が軌道に乗り始める時期とほぼ重なります。そのため、大学院博士課程後期課程(いわゆる博士課程)に進学するか、博士前期過程(いわゆる修士課程)を卒業して企業等に就職するかでかなり迷ったことを思い出します。会社に入れば収入は安定するものの自分が興味を持つ分野の研究に携われる可能性は低くなってしまう、一方で大学に残れば生活は苦しいが興味を持つ分野を突き進むことが出来る、との二択で迷いました。私が大学時代に行っていた研究は脳内グリア細胞の一種である「ミクログリア」の生理的・病理学的存在意義を求める研究でした。脳内では「脇役」と考えられてきたグリア細胞が様々な状況下において神経伝達や神経変性疾患、脳内環境の恒常性維持に関して積極的に関与しているという事がわかり始めた時期であり、様々な手法を用いてグリア細胞に関する研究をしていました。非常に面白い研究であった為、大学に残って研究を続けることを一番の選択肢と考えていたのですが、諸先輩方と話してアドバイスを戴くにつれて、自分が興味を持ち研究してきた事を「創薬」に活かすことが出来るのではないかと考えるようになりました。結局、就職活動の末、縁あって武田薬品工業株式会社に就職する事となりました。
 会社に入社してからは医薬研究本部創薬第一研究所に配属され、中枢領域疾患担当Gで研究を行う事となりました。自分が大学時代に研究していた延長線上にあたる領域の研究を会社で行えるのはとても幸運だと思います。しかし、大学における研究活動と企業における研究活動では大きな違いがあり、当初は大きな戸惑いを覚えました。言うまでもなく、製薬企業における研究の目的は「ヒトの薬を創製する」ことであり、実験動物を用いた薬理学的研究が大半を占めます。大学時代に薬効解析学教室(旧薬理学教室)に所属しながら薬理学的実験をほとんど行っていなかった私は、動物の扱い方から投薬の仕方、実験計画の立て方、統計解析手法に至るまで一から勉強しなおす事となり、まるまる一年を経てやっとスタートラインに立てる程度までになったかと思います。最近では合成系研究者の方々とのディスカッションにもようやく参加できるようになり、日々あれやこれやといろいろなことを考えながら研究を行っています。
 ところで、社会人になってからもっとも変わったことは休日の過ごし方だと思います。大学時代、休日はアルバイトか積み残した研究の続きをやることが多かったのですが会社に入ると「休日にしっかりと休み、疲れを次の週に残さないことも仕事の一環である」と教育され、思いっきり休むようにしています。同期と野球チームを結成して社内外のチームと対戦したり、寮のテニスコートで一日中テニスをしたり、時間のあるときはふらりと京都まで観光に行ったり、遠出して美味しいものを食べたりと充実した休日を過ごすようになりました。今後もゴルフや釣りを始めたり、冬はスノーボードに行ったりと週末の予定立てには当分苦労しなさそうです。
 雑多な内容となってしまいましたが以上で近況報告とさせていただきます。
 最後に二つ話題があります。一つ目はこの度、1998年薬学部入学同期の同窓会を開催することになった事です。有志で企画立案を行い、名簿の作成から連絡先調査、会場選びまで約半年の時間がかかりましたがなんとか開催にこぎつけることが出来ました。幹事を行ってくれた塚本氏、川后氏、坂本氏、佐多氏に感謝いたします。学部を卒業して就職していった友人達と約4年ぶりに再会できるのが今からとても楽しみです。

 もうひとつは、結婚することとなったことです。社会人としてまだまだ未熟ですが今後は仕事と家庭の両立が出来るようにがんばっていきたいと思います!